美術では、パルティア美術の特徴をなした人物の正面描写を根強く守ったが、全般にアケメネス朝とパルティアの伝統、およびヘレニズムの影響を継承して、独特の新イラン美術を形成した。

 その特色は、ナクシュ・イ・ロスタムなど重要地点の絶壁に刻まれた即位、戦勝、狩猟、饗宴(きょうえん)を描く磨崖(まがい)レリーフのほか、クテシフォンの宮殿をはじめとする建築物の構造や装飾、金銀細工、装身具、絹織物、石彫、ガラス器、楽器、貨幣などの工芸品にみられる。それらは、西方はビザンティン帝国、さらにキリスト教会を通してヨーロッパ各地に、東方はインド、中央アジア、中国、ひいてはわが国の正倉院にまで影響を及ぼしている。

[小玉新次郎]

『小玉新次郎著「パルティアとササン朝ペルシア」(『岩波講座 世界歴史3 古代3』所収・1970・岩波書店)』